豪州通信電子局(ASD)は10月27日、2025-26年度の年次サイバー脅威報告を公表し、この1年のAIを「サイバー脅威環境における決定的な力」と位置づけた。ASDが潜在的な悪意ある活動を通知した件数は4,400件超で前年比約8割増、対応した事案は1,500件超となった。長官は、フロンティアモデルの能力向上のたびにサービス停止を伴う混乱が増えることは「避けられない」と述べ、AI開発企業との早期警戒の取り決めを五カ国の情報共有枠組み(ファイブ・アイズ)全体に広げたと明らかにした。

フロンティアモデルが変えた脅威の前提

ASD長官のアビゲイル・ブラッドショー氏は、フロンティアモデルが脅威を「再定義した」と述べ、この1年を特徴づけた出来事としてAnthropicのMythosの登場を挙げた。報告は、AIツールが新世代のフロンティアモデルによって一段と利用しやすくなり、犯罪者と国家主体の双方が攻撃の速度と規模を高めていると記す。直近では、OpenAIのモデルを用いて発見されたPHPの重大な脆弱性への対応で、ASD自身を含む政府サイトの一部が修正のため停止に追い込まれた。長官は「能力が上がるたびに、より多くの混乱が生じる可能性が高い」と述べ、企業にサービス停止を前提とした備えを求めた。

報告はまた、9月に明らかになったメディケアのウェブサイトに対するAIエージェント群による攻撃を、政府サイトに対する初の自律的な侵入と位置づけている。国家主体については、安全保障環境の悪化に伴い、将来の作戦に備えてネットワーク内に「事前に配置」する動きが強まっていると警告した。マールズ国防相は、AIがサイバー犯罪者と国家主体に「より速く、より高度で、拡張可能な攻撃」を可能にしていると述べた。

通知8割増が示す規模

数値面では、潜在的な悪意ある活動の通知が4,400件超(前年比約80%増)、ASDが対応した事案が1,500件超(前年比300件増、5年間で36%増)、サイバー犯罪の通報が82,000件超(約6分に1件)である。防護DNSは2,200億件超の問い合わせを処理し、5億6,400万件超の悪性ドメインへのアクセスを遮断した。自己申告による被害額は個人で平均33,000豪ドル、企業で93,500豪ドルと16%超の増加を示した。報告は、豪州の組織が何らかのサイバー事案に遭う可能性が前年より20%超高まったとする。

ASDは攻撃側だけでなく防御側のAI利用にも触れ、情報担当の副長官代理は「AIを使ってソフトウェアの能力をはるかに速く生み出している」と述べた。報告はAIが第二次世界大戦以降のどの技術よりも主権的な能力を高める潜在力を持つとも記しており、脅威と機会を同じ文書で扱う構成になっている。

AI企業との早期警戒を五カ国に展開

制度面で新しいのは、ASDがOpenAIを含むAI開発企業との間で「早期警戒」のプロトコルを設け、「これらのプロトコルはすべてのラボと、すべての五カ国と共有した」と長官が明言した点である。フロンティアモデルの能力が脆弱性の発見と悪用を加速する以上、モデル公開前後の情報を政府の防御側に流す経路が、同盟国の標準的な実務として定着しつつある。日本も5月のProject YATA-Shieldで同様の方向を打ち出しており、AI企業と政府機関の間の早期警戒の仕組みは、日豪を含む同志国の間で比較可能な論点になっている。

出典一覧

一次資料

  1. 1

    Annual Cyber Threat Report 2025-26

    一次資料Australian Signals Directorate · 2026.10.27

    出典確認 2026.10.28

    Australian Signals Directorate · 外部サイト

報道

  1. 2

    Disruptions 'inevitable' as AI-powered cyber threats grow, Australian Signals Directorate says

    報道ABC News · 2026.10.27

    出典確認 2026.10.28

    ABC News · 外部サイト
  2. 3

    ASD report highlights increasing number of AI-enabled cyber threats

    報道PS News · 2026.10.27

    出典確認 2026.10.28

    PS News · 外部サイト
  3. 4

    Report: Aussie cyber agency received more than 82,000 cybercrime reports in 12 months

    報道Cyber Daily · 2026.10.27

    出典確認 2026.10.28

    Cyber Daily · 外部サイト

掲載号を読む

関連資料と分析

背景

明示された関連付けはありません。

根拠

明示された関連付けはありません。

続報・後続版

明示された関連付けはありません。

関連する論点

この記事の引用

AI & Security Observatory(2026-10-27)「豪ASD年次脅威報告、AIを脅威環境の「決定的な力」と位置づけ 悪意ある活動の通知は8割増」『AI & Security Observatory』、第1.0版、最終更新2026-10-28。https://ai-security-observatory.org/ja/brief/brief-20261028-02/

AI & Security Observatory (2026-10-27). Australia's ASD annual threat report names AI the 'defining force' in the cyber landscape as notifications of malicious activity rise 80% . AI & Security Observatory, version 1.0. Updated 2026-10-28. https://ai-security-observatory.org/en/brief/brief-20261028-02/

版 1.0 · 公開日 2026.10.27 · 最終更新 2026.10.28

改訂履歴
  1. 過去の改訂履歴は未記録です。